while the ink is not yet dry.

about ↗

発酵する蜂蜜 -Ha Kko Su Ru Hachi Mitsu-

かおりが最初さいしょとどく──。

空気くうきけた砂糖さとうあざ鼻腔びこう迷路めいろ渦巻うずまきながら、
記憶きおく傷壁しょうへきやすりけずる。
はなびらはたおやかに、 一枚ひとひらひとひらがなつ葬送そうそうする。 なつ遺影いえいくちおくで そっと後味あとあじりもどす。
蜂蜜はちみつのチューブはしなだれ、 三分さんぶんいち夕暮ゆうぐれ、 のこりはかえれなかったはちあつ
ビタミンCの錠剤じょうざい── ガラスびんなか軌道きどううしなったあわ太陽たいようびんのどりつきながら、 けるはずの未来みらいつづける。
カトラリーはなまぬるいみずなかあせ天井てんじょう極光きょっこうれる。 使つかわれるという神学しんがくを、 水銀すいぎんのようにただよわせて。
記念日きねんびさら何度なんど練習れんしゅうかさねた ささやかな亀裂きれつえがききった。
来週らいしゅうのコンサートのチケットは 冷蔵庫れいぞうこ磁石じしゃくしたばみ、 音楽おんがくのアンコールがすでに そのなかびついている。
玄関げんかんには── ビニールかさ迷彩めいさいのようにしずくをこぼし、 くつ優柔不断ゆうじゅうふだんゆがみ、 キーホルダーはあかはなつ。 プラスチックの肋骨ろっこつとおし、 てつにおいがく。
蜂蜜はちみつわすれられた呼吸こきゅうおく発酵はっこうし、 ちいさな気泡きほう聖堂せいどうあつらえながら、 あまさこそがみずからを裏切うらぎすべおしえる。 あまさは永久不変えいきゅうふへんと──。
のどのこるのはかおりではなく、 ただやさしいいたみ、 腐敗ふはい代数学だいすうがく除算じょさんがどうじゅくすか、 たった一度いちど温度おんどらぎが いかに人生じんせいつちへともどすか。
そしてわたしたちは浮遊ふゆうする── 発酵はっこうした蜂蜜はちみつのように。 痕跡こんせきとして、からとして、残滓ざんしとして。
わたしたちがかかえたあかしみ、 わたしたちをかかえたあかししながら、 なおふかあじわいをのこして。